弁護士が相続問題にかかわる場面
弁護士が相続に絡む相談を受ける場面は、通常、大きく分けて2つあります。
1つは、相続が発生した後.故人(被相続人)のご家族(相続人)から、相続人のうち誰がどの遺産を取得するか揉めているので、何とかうまく遺産分けをしたいという相談を受ける場面であり、もう1つは、相続が発生する前、相談者(多くは年配者)から、将来自身が亡くなったときに相続人となる人々(配偶者や子など)が遺産争いをすることを心配し、トラブルを防ぐためにきちんとした遺言を残しておきたいという相談を受ける場面です。相続が発生した後に相続を受けるとき
遺産分けは、遺言が存在しない場合、「遺産分割協議」という相続人間の話し合いにより行うのが法律的には基本となります。
ところが、法律上、相続人のうち誰がどういう割合で遺産を取得するかについては、「法定相続分」(例えば、夫が死亡し妻と2人の子らが相続人の場合、法定相続分は、妻が1/2,子が各々1/4ずつ)という決まりがありますが、具体的に誰がどの遺産を取得するかについてまでは、明確な決まりがありません。
また、遺産の評価額が争いになったり(不動産や同族会社の株式などが典型)、相続人の一部の方が、故人の生前における財産の形成・維持に対して貢献をしたこと(寄与分)や、他の相続人が故人から生前に贈与を受けたこと(特別受益)を主張し、それらの事情を遺産分けの場面で考慮するよう求めることも多くあります。
さらに、「長男が家を継ぐ」といった戦前の家督相続的な発想が根強く残っていることから、法定相続分を前提とする遺産分け自体に難色を示す方も、まだまだいらっしゃいます。
そういった事情から、一旦相続のトラブルになると、なかなか円滑に遺産分割協議が進まないことが多く、家庭裁判所での調停・審判に委ねざるを得なくなり、解決までに多大な時間的・精神的負担を要する場合が生じてきます。相続が発生する前に相談を受けるとき
遺言が存在する場合、法律上は,相続人間の遺産分割協議より、遺言の方が優先されるのが原則です。
従って、自らの相続が発生する前にきちんとした遺言を作成しておくことは、後日の相続人間の紛争を防ぐためには非常に有効な手段であり、是非検討したいところです。また、自筆の遺言であると、後日遺言の効力が争われる可能性がありますので、公証役場で遺言公正証書を作成する方が安心といえるでしょう。
但し、遺言も万能ではなく、例えば、特定の相続人に遺産のすべてを相続させる遺言をしてしまうと、他の相続人の「遺留分」を侵害してしまう場合があります。
また、相続税が発生するような高額の相続の場合、納税資金の手当についても考えておく必要があります。これらの事情への配慮を欠いたために、せっかく遺言を作成しても、新たなトラブルが生じてしまう場合がありますので、注意が必要です。トラブル防止のための事前の解決策
以上のことから、相続問題を複雑なものとしないためには、被相続人となる者が、専門家と相談のうえ、後日の相続人間のトラブルの素をできるだけ排除した遺言を公正証書によりあらかじめ作成しておくことが重要です。
設楽雄一郎(弁護士)